劇団ケーキ投函『ケーキを海底のポストへ投函』

劇団Q+プロデュースによるユニット「劇団ケーキ投函」の第一回公演『ケーキを海底のポストへ投函』が2019年2 月24 日(日)、神奈川県横浜市の若葉町WHARF で開かれる。

同公演は、四人の作家が書いた脚本を四つのチームが上演。個性豊かな脚本と出演者により、「恋愛」をテーマとした四つの物語が紡がれる。


『さあ歌えよ 人魚たちのそれは深海をたゆたい窓の外へ/耳を澄ませる』
公演前特別連載企画 第2弾 「物語の舞台へー笹塚デート編ー」

キャスト=はる/ティナ/西田いづみ/四月一日太陽/のいちひでのぶ × 作・演出=見ル野月


役者の素顔や、作品ができあがるまでの裏側をご紹介する『さあ歌えよ 人魚たちのそれは深海をたゆたい窓の外へ/耳を澄ませる』公演前特別連載企画。第2弾となる今回は、作品の舞台である笹塚にてデートする主演2人の姿をお届けします。

『さあ歌えよ 人魚たちのそれは深海をたゆたい窓の外へ/耳を澄ませる』 03/『ケーキを海底のポストへ投函』

あらすじ
その年の流行語大賞はアンマリだった。15年前、某アイドルグループに加入したアンとマリはまるで双子の天使。「アン派?マリ派?」の質問は挨拶のように交わされ、当時中学生の理子は「俄然アン派!」しかしアンはスキャンダルにより突如脱退。
時は過ぎ、デザイナーとして働く理子(29)は、表舞台から姿を消したアン(30)と出会い同棲を始める。

キャスト
理子 / はる
アプリコット・アン(アン) / ティナ

移り行く役と役者の関係性
物語は2人が暮らす部屋からはじまる。そして、その部屋があるのが笹塚である。というわけで、恋人同士の理子とアンが暮らす笹塚の街から、2人のデートレポをお届けする。前回のショートインタビューの取材から生まれたこの企画。筆者は笹塚の街を歩く中で、前回の取材時に稽古場で会った2人と、目の前で談笑する2人がまるで別人のように変わっていることに驚かされた。各々の役と役者との距離感が親密になることによって理子とアンの関係性は鮮やかに浮かび上がり、お互いを引き立たせ合う。稽古を重ねるごとにどんどん役を自分の中に取り込んでいく2人。今日のデート企画ではいったいどのような変化を見せてくれるのだろうか。

「物語の舞台へー笹塚デート編ー」

『さあ歌えよ 人魚たちのそれは深海をたゆたい窓の外へ/耳を澄ませる』 03/『ケーキを海底のポストへ投函』

2月11日(祝)、まばらな乗客を運ぶ京王線を降り階段を下ると、改札の向こう側に談笑するはるとティナの姿があった。19時半、笹塚駅。駅前の街路樹を飾る季節外れのイルミネーションが空風に揺れて光る。

はる
「商店街の向こうに、理子とアンが住んでる家見つけたんだよ。ティナちゃんはなんか暗い家って、悪口言うんだけど(笑)」
ティナ
「だって暗いでしょー」
はる
「まあそうなんだけどさー。あ、あとね、ペアリング見つけたんだ!」
ティナ
「そうそう、いい感じのやつあって!」

2人に連れられて駅ビルに入る。開業してから日が浅いのだろうか、やけに綺麗なビルの1階にはスーパーや惣菜店などが並び、3連休最後の夜を過ごす人たちで賑わっていた。

ティナ
「スーパーもあるし、きっと(アンと理子は)ここで夕飯買ってるよね」
はる
「アンは料理しないもんね」
ティナ
「するよー!ほら、あの地中海の…なんていったっけ」
はる
「それはあの日だけでしょー普段しないじゃん。ずっと部屋にいるのに家事全然やらないもんね。洗濯物だって干さないでしょ」
ティナ
「……理子ちゃんが干してくれるからー」
はる
「ほらー」

通路の突き当たりにある雑貨屋で、2人はそれぞれウェーブのかかった艶消しの指輪を買った。それは300円で2種類の指輪がセットになっている商品で、片方を指先で持ち上げると透明の結束糸でつながったもう一方が揺れた。”おまけ”の方のキラリと光るシンプルな指輪をはめたはるが「こっちはさ、普通の奥さんの役とかやるときに使えるんだよ」と言った。駅ビルを出ると、先に探索を終えた2人は、商店街を案内してくれる。

『さあ歌えよ 人魚たちのそれは深海をたゆたい窓の外へ/耳を澄ませる』 03/『ケーキを海底のポストへ投函』

ティナ
「理子とアンは普段のご飯、外食かコンビニだからさ、この居酒屋とかきてそうだよね」
はる
「お酒飲まないで、ファミレス感覚で居酒屋にきそうだよね」
ティナ
「迷惑な客だなー……あ!鯖の味噌煮だー(隣の和食屋のメニューを見つけて)」
はる
「インプロで食べたがってたやつじゃん(笑)」
ティナ
「きっと私たち、ここの常連だな」
はる
「あ、そうそう、あのTSUTAYAにアンちゃんは通ってるんだよね。……TSUTAYAの「マ」の列には「マーマレードジャム」のCDあるってことだよね」
ティナ
「うん、でもアンはTSUTAYAに言ってもその棚は見ない、スルーするかな」
はる
「理子はアンに内緒で通勤のときイヤホンで聴いてそうだよね(笑)通勤って言っても職場新宿だからすぐだけど、朝満員電車の中とかでさ。それで、ひとりでテンション上がってそう」
ティナ
「ばれたら怒るよー(笑)」
はる
「超機嫌悪くなりそう(笑)」
ティナ
「(笑)電車乗らないでも商店街と駅ビルでなんでもそろうから、アンはマスクと帽子で顔を隠せば結構笹塚で自由にふらふらできるんだよね」
はる
「やっぱね、ひとごみだと見つかっちゃう可能性あるから」
ティナ
「そう、だから、新宿まではいかない。笹塚から出ない!」
はる
「出ないでもなんでもあるしねー」
ティナ
「ねえ、これ本物かなあ?(花屋の店先の観葉植物を見て)」
はる
「本物でしょ!」
ティナ
「ほんと?でも変な色だし」
はる
「ちょっと、失礼!(笑)確かに変な色だし、なんかよく見ると形も気持ち悪…」
ティナ
「はるちゃんも失礼じゃん(笑)」
はる
「理子とアンって、こうやって2人とも悪気なく失礼なこと言いそうだよね(笑)」

商店街を抜けると、静かな住宅街にさしかかる。そこから3分ほど道なりに進んだところにあるマンションが、2人が暮らす部屋なのだという。道路から見上げる窓ガラスには、古めかしい花模様のすりガラスがはまっている。

『さあ歌えよ 人魚たちのそれは深海をたゆたい窓の外へ/耳を澄ませる』 03/『ケーキを海底のポストへ投函』

はる
「ここ!」
ティナ
「ねー!暗いでしょー暗い感じする」
はる
「でもでも、すごい大きいじゃん?見て!それぞれの階の廊下にドア2つずつしかないから、この建物の面積半分分部屋なんだよ!きっと理子は、「とにかく広い部屋がいい!」とか言ってここにしそうじゃん。アンが文句言っても、強引に決めちゃいそう。たしかにかなり古っぽいんだけど、理子ってあんまり給料貰ってないと思うから…」
ティナ
「まあ、私はいそうろうだからね(笑)」
はる
「それに、こういう外観の建物って中はリフォームされてて今っぽかったりするんだって!ていうか、私たちさっきからずっとこの辺うろうろしてるからさ、住民の人がめっちゃ怪しい目でみてくるんだよね(笑)」
ティナ
「用もないのにこの辺で建物みて話してるから」
はる
「実際引っ越ししようとしてる人が下見に来てると思われてるかもね」
ティナ
「確かに(笑)」

もと来た道を戻る。手をつないで歩く2人は、まるで物語の中から出てきたよう。”人と人とのコミュニケーション”を幻想と現実の境界から捉えようとする本作のように、笹塚の街に馴染む2人を見ていると物語と現実のさかいめが滲んでくる。作品では「言葉」を鍵に核心に切り込んだが、今夜は2人自身が秘密を解き明かす鍵になる。”はる/ティナ”と”理子/アン”。まるで物語の中に入り込んでしまったかのようなこの街から世界がゆらぎ始める。芝居と現実の境界線をどんなにしっかりバミっても、物語の奔流はとめられず、観客の中に流れ込んでいく。きっとそこに、囲い込んだ現実よりも”もっとリアルなもの”があるのかもしれない。物語を超え現実をも塗り替えてしまうほどのエネルギーを秘めた2人は、本番ではどんな顔を見せるのだろう。筆者は胸の高鳴りと共にささやかな恐怖を覚えた。 商店街の端にあるスペイン料理店に入り、遅めの夕食をとった。お店での2人のインタビューは、次回第3弾(公演までに間に合うのか?)でお届けします。お楽しみに?

写真 izumi
取材・文 平野勾

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