Voice Vol.5
Anko Kanmiya

VOICE vol.5 Anko Kanmiya


走り出したら止まらずそのまま真っ直ぐ進む。


初夏、劇団Q+の活動は加速する。
夏に控える年一回の本公演の稽古が本格化するからだ。

「はい。今日は台本を持ったままでいいから、少し動きながら読んでみよう」 出来たての台本を手に神妙な面持ちのメンバーたちへ、演出家の声が飛ぶ。 劇団Q+は現在、第4回本公演『アイノカタチ』(2017年8月5日・6日/のげシャーレ)に向けて取り組み中である。

劇団Q+ 甘味屋餡子

旗揚げから4年目を迎えた劇団Q+。
公演のたびに新しい舞台表現にチャレンジしているが、とくに今回は従来とはひと味もふた味も違うかもしれない。まずはこの春、仲間が急激に増えた。当初は9人で始まった劇団に、今や20人以上のメンバーが所属する。いつもの稽古場はぎゅうぎゅう詰め。本公演の会場も、思い切ってこれまでの倍以上の大きさの劇場を選んだ。さらに芝居だけでなく、ダンスやアクションなど役者たちの表現の幅を広げるためのトレーニングも始まっている。おそらく、新メンバーたちにはもちろんのこと、旧来からのメンバーたちにとっても刺激的な夏が待っている。

劇団Q+ 甘味屋餡子

劇団Q+の初期メンバーたちは、十年近く共に芝居の道を歩んできた仲間である。
劇団内ではベテラン役者ということになるだろう。舞台に向けて各自が四苦八苦するのは毎度のことだが、経験を重ねるうちに、それぞれ自分なりの方法やコツを見つけて芝居を創っている。

役者と一言で言っても、いろいろなタイプの役者がいる。中には役になりきる“脊髄反射型”のスタイルの役者もいるが、甘味屋餡子はその一人だ。脊髄反射型にも、キャラクターを分析し、「こういうキャラだからこうするだろう」と言葉で役を考えていくタイプと、感覚的になんとなくなりきってしまうタイプがいるが、餡子は前者である。

餡子は、2016年第3回本公演『Outsider A』での老婦人・トリ婆役や、2017年3月公演『ポイプロ!』の母親役など、実際の彼女より年上の役をやることも多い。まったく経験したことのない未知の役に対して、彼女はキャラクターをベースにアプローチすることで役を造形していく。

トリ婆役のときは「お婆さん」をどのように演じるか、声をしゃがれさせるか、腰を曲げるか、どうやったら年齢感が出るかなど、試行錯誤したという。母親役のときには、医者である夫や夢見がちな娘との関係性や家柄などのイメージから、大らかでお茶目な夫人をつくり出した。

劇団Q+ 甘味屋餡子

また、本番中の予期せぬハプニングでもキャラクターのベースづくりが彼女を助けている。餡子は、過去の公演で、ハプニング時にアドリブで切り抜けたときのことをこう振り返る。

「2014年第1回本公演『お茶屋のかぞく』で、緊迫した雰囲気の中、場の空気を和まそうとするおばちゃん(餡子)がお茶を運ぶシーンなのですが、ハプニングでお茶をこぼしてしまい、全く台詞にはない『あらあら、まあまあ、どうしましょ!』みたいなことを言いながら、うっかり者のおばちゃんとして慌ててお茶を拭いた記憶があります。」

ただでさえ緊張する舞台本番。予期せぬことが起こると、咄嗟に素の自分に戻ってしまう役者もいる。そういう時に、役者たちの舞台への集中度やキャラクターの理解度が助けとなる。
餡子のこのアドリブでは、公演後、本人が友人に思い出を話したところ「全く違和感なかった」「むしろ、そういう台詞(段取り)だと思った」と言われたという。

「私は台詞よりもキャラクターを優先して身体に入れ込むタイプなので『この場なら、このキャラならこう発言するよな』というのが“脊髄反射”で出ることが多いです。」

キャラクターから、芝居が脊髄反射で出るという餡子。
そこに彼女の日常の姿も垣間見えてくる。

「私自身、普段の会話でも相手へのツッコミが脊髄反射で出てしまうのですが、それは間違いなく高校時代にはまってたお笑いによる弊害です(笑)。」

稽古場でほかのメンバーたちとする何気ない会話で、彼女はもっぱらツッコミ担当なのである。とくに古くから芝居を通して交流を深めてきたQ+初期メンバーとのふれあいでは、ちょっとしたボケをかましたメンバーが見事に餡子に一蹴されるという光景もしばしばだ。その鋭いツッコミも相手のキャラクターをよく理解しているからこそできるのだが、餡子の芝居の原点はどうやら「お笑い」にあるようだ。

「私が芝居の世界に入ったきっかけは、大泉洋・TEAM NACSの芝居を見たことです。
“バラエティ番組『水曜どうでしょう』で大泉洋に興味を持つ→芝居をやってると知る→TEAM NACSの公演(COMPOSER)を見る→すごーい、おもしろーい、やってみたーい→ネットで団員募集の書き込みを見る→やる!”
箇条書きにすると非常に頭の悪い流れですが、『見ておもしろい物はやるともっと楽しい』というのがモットー。走り出したら止まらずそのまま真っ直ぐ進む人間なので、その衝動のままここまで来ているという感じです。」

劇団Q+ 甘味屋餡子

“脊髄反射”や“衝動”という言葉で語ると、芝居は勢いなのかと思う人もいるかもしれないが、そうではない。舞台本番はライブだが、役者たちはただその場の勢いに任せているわけではない。観客に作品の意図がしっかり伝わるように、計算された冷静な表現も必要になる。

餡子の芝居においてそれがよくわかる例が、2015年第2回本公演『絵筆士のコグレ』でのルグリ役だ。

物語のクライマックス、魔法によって舞台の時間が過去へと戻る場面。
鳴り響く地響きと鐘の音、パニックに陥ったまわりの人々の悲鳴の大音響の中、彼女はキャラクターとして事態に慌てる芝居をする一方で、観客にセリフで状況を説明する、という役割を担った。舞台上にキャラクターの人格でリアルに生きなくてはいけない一方で、役者としての冷静な表現が求められた。

「パニックで説明するシーンは、たった一言なのに毎回エネルギーを最も使うシーンだったりします。少なくとも動きや表情は慌てなくちゃいけないけど、大音量の音響や周囲の悲鳴に負けない大きな声を出し、でもただの大声じゃなく観客に言葉として届くようにしないといけない。
お客さんに言葉として届いているかとか、パニックの芝居がいい加減になってないかとか、自信がない部分もけっこうあります。」

同様な役割は第3回本公演『Outsider A』のトリ婆役でも見られた。滝つぼに突入するパニック状態の船上で、悲鳴と水しぶきの轟音の中、観客に状況をセリフで伝えるという場面があった。

この役割は、劇団Q+の中で、彼女の声が女性にしては低音で大声を出しても聞き取りやすいという長所も考慮されてのもの。自信がない部分もある、と語る餡子は芝居に取り組むうえで、発声やコミュニケーションの基礎を大切にしている。

「『基礎は芝居中のつもりで、芝居中は基礎のつもりで』というのを考えています。私はその二つが乖離してしまうことが多いので。
コミュニケーションで意識しているのは、とにかく『聞くこと』ですね。時々、『音は聞こえても声は聞こえない』状態になっていることがあると自分で思います。特に、どうしても本番直前になると精神的にも手一杯になってしまい、こういう心がけも忘れてしまい勝ちになるのですが。一つできれば次もできるようになるので、継続させてクリアしていきたいですね。」

劇団Q+ 甘味屋餡子

餡子は、発声やコミュニケーション、キャラクターの理解など、演技の基礎を積み重ねる一方、自身の役者としての持ち味の開拓にも積極的だ。例えば、2016年秋冬の「シーン稽古※シーン稽古について」で餡子は、7歳、12歳、17歳、21歳、25歳、50歳、84歳、と一瞬で年齢が変化していく一人の女性の芝居に取り組んだ。
どのメンバーも課題を超えるのはなかなか難しいものだが、チャレンジすることで一歩ずつ新たな可能性を拓いていく。餡子も、稽古での試行錯誤が、彼女の次の芝居へとつながっていく。

「今後も役者として、瞬発力や爆発力は欲しいと思っています。ここは基礎云々より発想とセンスの問題にも近いのですが、引き出しを多く作って、すぐ取り出せるようにすれば限りなく近くはなれるのかな、と考えています。」

各メンバーが悪戦苦闘しながら創り上げていく舞台。それぞれ課題は多く先は長いだろうが、それでも続けてきたことで、少しずつ掴んできたものがあるのも確かだ。 餡子も仲間たちと共に、第4回本公演『アイノカタチ』に向けて、さらなる飛躍を目指す。

あんこさん / 社会人演劇集団「劇団Q+」

甘味屋餡子 役者 / 広報 ( 創設メンバー )

  • 職業 流しのゲーム屋
  • 血液型 AB型
  • 誕生日7月9日
  • 趣味 / 特技 ネットサーフィン・動画漁り・カラオケ・ぬるい追っかけ・読書・小説執筆 / 雑学・考察
  • 出身 東京都世田谷区
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  • 出演
  • 「アイノカタチ」「ポイプロ!」「Outsider A」「ご予約の高橋様」「絵筆士のコグレ」「お茶屋のかぞく」- 劇団Q+ /「みんなでお茶を」「ハナウタ商店街へようこそ」「横浜御気楽総合病院」「恋は世界を駆け巡る」「朗読劇 ラヴ・レターズ」- 横浜スタイル
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  • エキストラ
  • ザ・スクープスペシャル「よど号ハイジャック事件~40年目の真相~」乗客役 [PV]4Kテレビプロモーション映像 主婦役

※シーン稽古/メソッド演技法を軸に、キャラクターとしてのリアリティを追体験するための稽古。各自の課題に取り組むために、役者は自分で戯曲を選択しその中のワンシーンを演出家の前で演じる。主宰・柳本はそれに対しサジェッションを行い、役者と演出家が互いに役への理解を深めていく稽古。
シーン稽古で演じる戯曲は舞台・映画・ドラマ・小説等多種多様である。キャスティング、衣装、道具類も各役者が持ち寄り、本番を想定して演じる。