Voice vol.9
Namu

VOICE vol.9 Namu


いつか韓国や他の国でも必ず舞台に立ちたい。


2020年7月、世間は依然として春以来の新型コロナウイルス流行の動静をうかがう状況が続いている。この間、外出自粛に伴うお家時間をどのように過ごすか、いろいろなアイデアがニュースやインターネット上で紹介されているが、家で映画やドラマを鑑賞していたという人も多いだろう。たとえば昔懐かしのテレビドラマが再放送されたりして話題となったが、なかには韓流ブームが再加熱したという話もある。韓流というと映画『パラサイト 半地下の家族』の話題も記憶に新しい。

劇団Q+はさまざまな世代や職業のメンバーが所属しているのが特徴だが、加えて、国際色も近年のキーポイントである。人数は多くはないが、英語などの外国語を得意とするメンバーたちがおり、Q+の作品では脚本および演出で重要な役割を担っている。

なむ Namu

その一人である「なむ」は、韓国から来日して仕事をしながら演劇を続けている。
彼女は母国語である韓国語のほか、英語、そして日本語を使いこなす。劇団や職場では主に日本語で会話をしているが、その言葉遣いは言われなければ日本人だと勘違いしてしまうほど流暢だ。公演でも、何も知らない観客からは日本人だと思われていることが少なくない。
なぜ彼女は、日本で演劇を始めたのだろうか。

「最初は本当に日本語をうまく喋りたかったからですね。韓国で大学を卒業して日本で就職をして、ビザの関係で同期の人より早く入社して、一人で会社にかかってくる代表電話を取り続ける仕事を最初にもらったんですけど、日本語が全然だめで、向こうからかかってきたのに、『あーいいです』って切られまくってて(苦笑)。ただ電話取るくらいしかできないのに、それもできない自分が不甲斐なくて、とりあえず、『うまく喋れるようになりたい!』と。それで滑舌とかのワードでWeb検索していくうちにQ+に迷い込みました!」

筆者は彼女が入団したときに出会ったが、すでに違和感なく日本語で会話ができていたため、そのように彼女が苦戦していたのは意外である。
日本語を学ぶために劇団Q+と出会ったという彼女。持ち前のバイタリティで、入団も即決したようだ。

「(Q+への入団は)その場のノリだったかもしれません(笑)。同じ日に体験に来ていた人が、『ぼくは入ります。お姉さん入らないの?』ってあまりにも自信もって言うもんだから、『じゃあやってみます』ってなりました。今考えると(当時一緒に体験に来ていた)フシミありがとう! ですね。」

VOICE vol.9 / なむ Namu

そんな彼女の人柄や語学の才能が、前述のように、Q+の公演で活用されている。2019年の第6回公演『夢中/滑稽』では、なむの演じる在日韓国人のチュンジャが、韓国語と日本語で独白する印象深い場面が作られた。

VOICE vol.9 / なむ Namu

「公演終了後にお客さんから『韓国語はどこで覚えたんですか?』って言われて、すごく嬉しかったです(笑)! 言語の壁があって芝居より言葉が気になるって嫌だなって思っていたので、妙な達成感を感じました。」

また、同公演での彼女の思い出は演技だけに止まらない。Q+では役者がスタッフワークも兼務するため、皆そちらも忘れがたい出来事になるようだ。
「(私は)『夢中/滑稽』では小道具を担当しました。あとから、観に来た方に、『あれ、手作りだったの?』とか、『リアルだったよ』とか、お褒めの声を頂いて嬉しかったです。割れた茶碗を準備するときに、エイヤ! で割ったら、割り方が下手くそ過ぎて演出の柳本さんがもう一回ボンドでくっつけて割り直すという変な時間があって、なんか思い出です。」

VOICE vol.9 / なむ Namu

なお、公演をはじめ、劇団内で使われる脚本は基本的に日本語のものである。周りの人間からは、彼女がそれをスラスラと読んで理解して演じているように見えるのだが、その裏には相当な努力がある。彼女は日本語の台詞を、一度母国語に翻訳して内容を理解し、それを更に日本語で自分の中に落とし込むという。

「以前、劇団のシーン&ディレクション稽古(※シーン稽古について)でシェイクスピアの『ハムレット』を日本語&英語半分ずつで演じたことがありました。すごくワクワクしました。
第二言語で演技をはじめたので、逆に韓国では芝居をしたことが無いんです。でも、いつか韓国や他の国でも必ず舞台に立ちたいと思います。日本でも日本語以外の言語で舞台がやりたいです。言語が不慣れだからこそできる間のとり方とか、不自然な雰囲気もあると思っていて、そういうのもいつか操れるようになるといいなと思います。」

語学の才能があるということはもちろん、演劇への情熱と並々ならぬ努力が、彼女の独特な芝居を創り出している。言葉のイントネーションやテンポのちょっとした違い、先入観にとらわれない台詞の解釈などが、彼女の唯一無二な表現を生み出す。それはとてもチャーミングだ。

VOICE vol.9 / なむ Namu

「(Q+は)社会人が多い劇団だけど、趣味の範囲で終わらせないところが魅力ですかね。やることはとても本格的だし、求められるレベルも高いと思います。中で見えない競争もあったりして、切磋琢磨できているところ。みんな普段は会社でガンガン仕事しながら、通勤の電車で台詞を覚えて平日の夜に練習して。でもそういう頑張りを隠して、平然として日曜日はすごい演技をしてるんですよ。えもい! です。」

彼女が他のメンバーたちに影響を与えるように、彼女もまたメンバーたちから刺激を受けて日々の稽古に励んでいる。最近では、チェーホフ『かもめ』やテネシー『欲望という名の電車』など、重厚な作品にもチャレンジしている。
なむは、目指す役者像を次のように語る。

VOICE vol.9 / なむ Namu

「時間が経ってからふと思い出してしまう人がいいですね。よく自分で観てもそうですが、あとで思い出して『ぷっ』と笑いが出るとか、『あの人のあの目が、すごく悲しかったんだよね』とか、そういう一瞬でも観に来た方の心に何か響く芝居ができる人になりたいです。」

いずれ更なる学びのため、また違う国へ行くという「なむ」。演劇人そして社会人として、世界へ羽ばたいていこうとする彼女のエネルギーはまぶしい。劇団Q+に輝きを添えるメンバーの一人である。

VOICE vol.9 / なむ Namu

なむ 役者 ( 2016年入団 )

  • 職業 / OL
  • 血液型 / O型
  • 誕生日 / 11月11日
  • 趣味 / 観劇、映画鑑賞
  • 特技 /
  • 出身 / 韓国
  •  
  • 出演
  • [ 舞台 ]「夢中/滑稽」「サンパティック★ブロンコ」「アイノカタチ」「ポイプロ!」- 劇団Q+ /「ケーキを海底のポストへ投函」- 劇団ケーキ投函 /

※シーン稽古/メソッド演技法を軸に、キャラクターとしてのリアリティを追体験するための稽古。各自の課題に取り組むために、役者は自分で戯曲を選択しその中のワンシーンを演出家の前で演じる。主宰・柳本はそれに対しサジェッションを行い、役者と演出家が互いに役への理解を深めていく稽古。
シーン稽古で演じる戯曲は舞台・映画・ドラマ・小説等多種多様である。キャスティング、衣装、道具類も各役者が持ち寄り、本番を想定して演じる。