VOICE vol.6 Nana Misato
日曜の午後、やまびこスタジオにはノリのいい音楽が流れ、それに合わせて汗水流す劇団員たちの姿がある。
劇団Q+では稽古前に1時間ほどダンスのレッスンを行っている。基本的なストレッチやステップに始まり、ダンスの先生がつけてくれたフリをヒット曲やショーで使われた曲に合わせて踊っている。
社会人劇団という特性上、平日は皆仕事をしている。特にデスクワークが中心の者が多く、中々普段しない動きや運動量に翻弄されながらも、それでも確実にフリを覚え、ステップをものにしていく。
多くの者が四苦八苦する中、一際メリハリの利いた動きを見せる者がいる。
それが美里菜々だ。
「ダンスは習ったことはなくて、中学の部活動でやってただけだから専門的なことは全く分からないんだよね。」部活とは言え、ダンス経験者は未経験者と比べて動きだけではなく、覚える速度もまるで違う。
「本当は美術部の体験入部に行ったけど活動がお休みの日で、たまたま近くで活動してたダンス部に行ってみたら楽しくて。 最初はダンスするつもりなんて全く無かったなぁ。今思えば不思議。
上達のこつというのは特にない。ただ『好き』だっただけかな。学生時代はただ好きで好きで好きで踊ってただけだった!
劇団でレッスンをするようになってからは、動画を撮って観察してる。先生の動きと比較して、手の角度・重心・つま先の向き・かかとの位置・首の位置・目線、と一つずつ確認して修正していく」
人前で踊ることから演じることへ興味が変わったのが高校の頃のこと。
「元々、高校生の時に声優さんが好きで声優になりたいなーって思ってまして。 当時凄く好きだった声優さんが舞台に出るってことで観に行ったら 『なんて面白い世界……!』って舞台が大好きになって、それからは声優じゃなくて舞台役者になりたい!お芝居したい!と思うようになり。」 劇団Q+でもこのダンス経験は活かされている。
「絵筆師のコグレ」では美里は思うように踊れなくなったダンサー役を演じ、短いソロダンスは大変印象的なシーンとなった。
さて、公演前後となると美里は役者以外にも重要な仕事を任されている。それは「制作」と呼ばれる仕事だ。特に2017年に上演した『アイノカタチ』では、それまでの公演にはない客席数にも関わらず本番当日の受付ではキャンセル待ちのお客様が発生した。そんな時、受付周りで臨機応変に対応するのも「制作」の大切な仕事。
他にも本番前の予約や予算管理、客席数の割り振り、フライヤーの設置先の手配や割り当て、当日の受付周りや客席誘導、お金の楽屋管理や演者のケア、公演後の売り上げなど制作の仕事は多岐に渡る。
「制作は常に全体を見ている・把握している必要がある。何が必要か・何が出来るか・各セクションの進み具合はどうか・キャストのケアetc. ……常に考えて管理もしていかなきゃならないから気が抜けない。 常にその目線を忘れないように周りを見てる……つもり……」
舞台は決して役者だけで出来るものではない。本番を迎えるまで、そして当日も様々な人の助力によって成り立っている。 公演当日は美里も役者として舞台に立つ。役者として、裏方として両方のプレッシャーがかかるのだから、その重圧は言葉以上のものがあるのは想像に容易い。
さて、美里はこれまでの公演では物語の鍵になる『女性』や『女の子』を象徴するような役柄が多かった。
「元々の性格もあるんだろうけど、女子!って役が多い。あとは新メンバー入るまで私が女性の最年少ってのもあったのかな?(笑) 『女子』って言っても色々なタイプがいるからね。いつも同じになりがちだから、そこは気をつけたいと思ってる」
そんな中でも、今後挑戦したい役や芝居についてはどんなことでもやってみようと意欲的だ。
「『自分』にならないように。稽古してても『それは美里だね』って指摘を受けるので……どんな役でもやってみたい。私を消すようになりたい!」
今、劇団Q+には新しく若いメンバーが増えた。新メンバーの中には20代の女性もいる。今まで担当することの多かった「女の子」から、また新しいフィールドの美里が見られる機会が多くなるかも知れない。
※シーン稽古/メソッド演技法を軸に、キャラクターとしてのリアリティを追体験するための稽古。各自の課題に取り組むために、役者は自分で戯曲を選択しその中のワンシーンを演出家の前で演じる。主宰・柳本はそれに対しサジェッションを行い、役者と演出家が互いに役への理解を深めていく稽古。
シーン稽古で演じる戯曲は舞台・映画・ドラマ・小説等多種多様である。キャスティング、衣装、道具類も各役者が持ち寄り、本番を想定して演じる。